米国留学者数の減少のみが問題なのか?

ハーバード大学のドルー・ギルピン・ファウスト学長が2010年3月に訪日して、日本からの留学生数の減少に歯止めをかけたいと説いて回ったり、ワシントン・ポスト紙が2010年4月11日に、「かつて米国の大学に惹きつけられていた日本人学生が、内に籠もるようになった」という記事が掲載されたことから、日本のマスメディアは、日本人の米国留学は10年で4割減少などといった報道を繰り返しました。

どうやら、米国知識層は日本のことを大いに心配してくれているようです。

また、これらに追随するかのような論説が日本のあちこちのメディアに現れたりと、どうも日本中が「海外留学が減った。とくに米国への留学が減った。これは由々しきことだ。日本は世界で孤立する。」といった雰囲気が世の中を覆っているようです。

しかし、本当にこれが問題なのでしょうか。

もちろん、海外にどんどん出て行く若者が多くいるのは結構なことです。それを否定する気は毛頭ありません。米国は、今も世界の知識層やエリートが集まるところではあるようです。それも否定しません。

しかし、問題の所在は、じつは別のところにあると私は考えます。

今日の世界は、欧米一辺倒の時代ではないことは、1991年の湾岸戦争の頃を境として誰の目にも明らかであるはずです。そして、日本には、アジア、アラブ、中南米、アフリカの専門家が少なすぎて、そうした地域の情報を取るには、しばしば欧米経由の、欧米人のフィルターを通した情報を手にしているのです。そして、それにより、状況の判断を下しているのです。

これこそが問題ではないでしょうか。

今、日本に必要なことは、安全保障の観点から、より多くの国・地域と多角的な関係を緊密化することであることは明らかですから、日本独自の情報網が必要であるはずです。

求められているのは、より多様な分野の専門家を養成すること、専門家ではなくても、より多様な言語で情報を取れ、かつ、より多様な国・地域に親しい友人・知人がいる日本人を養成することのはずなのです。英語による情報はもちろんですが、それ以外の言語による情報も直接取れないとならないし、同時に多言語による日本からの発信もきわめて重要なのです。

このことが、10年、20年後の日本を、より強靭で柔軟な国にすることにつながるはずだと信じます。