多民族・多文化化の「失敗」?

英キャメロン首相も独メルケル首相に続いて近年の多文化主義政策は失敗だったと去る2月初めに宣言し(State multiculturalism has failed, says David Cameron, 5 February 2011 BBC, http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-12371994)、また、仏サルコジ大統領が多文化化に逆行する政策を認めたのも同様に、従来の路線を大幅に修正するものだと言えるでしょう。

一昨年は、豪州で「カレー・バッシング」の嵐が吹き荒れ、インド人留学生への暴行事件が連発して、ついには、印豪首相が電話で事態収拾を話し合うまでに至ったものの、結局、インド人留学生は豪州を敬遠して他の英語国に留学する傾向が強まりました。

こうした動きの背景には、異民族に対する嫌悪感があるという心理的側面よりも、より現実的な不況による失業率の上昇があると考えるべきでしょう。

「もともと我われがいたところに、それ以外の連中が入ってきて安い賃金で働くものだから、我われの仕事が取られてしまう。」といった極めて現実的かつ深刻な問題が横たわっています。

したがって、「外国人は入れたくない」⇒「より高い水準の教育を求めてやってくる留学生は、そのまま仕事を得て居座る可能性が高いから、留学ビザを厳格化せよ」⇒「それでも来るなら、留学後、必ず帰国するという誓約書を取れ」といった発想によって、留学生の締め出し傾向が強まったわけです。

ただし、今秋、英国に入国する外国人留学生は昨年同時期に比べ12万人減少するとも言われ、豪州でも新規入国留学生の大幅な減少が予想されるに至り、教育産業界は悲鳴を上げ始めました。

そうでなくても、多数の留学生を供給してきているアラブ諸国北アフリカ諸国は、強権を振るってきた政権への反旗を翻し、混乱したままなので、留学生が自由に出国できない状態にありますから、留学生減少に拍車をかけていると言えるのです。

日本ではご承知のように震災と原発事故で1/3の留学生が日本を脱出したと言われますし、しばらくの間、世界の留学生の状況は混乱が続きそうです。

これは、しかし、多文化政策の失敗と言う前に、リーマン・ショックに始まる「想定外」のいくつもの出来事の連鎖によって引き起こされている混乱であるという気がするのです。これを乗り越えるのも、関係者の知恵と努力次第ではないかと私は考えてます。