留学生地域交流の一つの好例 「夢っくす」


地域に住んでいたり地域の大学などに在学していたりする留学生を支援しようという活動は以前からありましたが、助成金がある間は活動しても、それがなくなると、次第にその活動が弱まったり、いつの間にか立ち消えになったりしているケースが目につきます。

過去に私が関わった2回ほどの大規模な留学生地域交流の事業でも、その傾向は顕著なようです。

一つは、1998年度から3年間、(財)日本国際教育協会を通じて全国の自治体経由で公募し、8道府県からの計画を採用した、「留学生交流モデル地域推進事業」、もう一つは、政府のその予算がなくなってから、(財)中島記念国際交流財団の助成で実施した「留学生地域交流事業」があります。後者は現在も継続中ですが、助成先を増やし助成額を減額したことから、何かを立ち上げて継続の方向にまで育てるという趣旨とは違っている気がしています。

そして、過去にそれらに応募し、この10年以前に開始した事業で、今日も続いているのは「うおぬま国際交流協会(通称「夢っくす」)の事業くらいしか私は承知していません。

この分野でも、「助成金ありき」「カネの切れ目が事業の切れ目」といった例が多すぎるのです。

なぜでしょう?

おそらくは、過去から指摘されてきているように、「国際交流は、外国語が堪能な"国際性"のある一部のエリートたちがする何かカッコいいものであり、国や自治体や財団などから助成金をもらって、どこか立派なホテルのボール・ルームなどを使って、きらびやかなパーティーなどをするもの」といった、ことの本質とはまったく異なる視点で捉えている「勘違い人間」が、まだまだ多いということなのかと考えます。

もちろん、そうではない、日常的で地道な活動をしている人たちもいるのは十分承知していますが、いまだに上述のような傾向があることは否定出来ません。

助成金を出す立場からすれば、それはあくまでも、「きっかけ作り」でしかないのですから、助成金が終わると交流も終わってしまうのでは、そもそも地域における交流が本来あったのかさえ不確かであり、たんにお金を遣っただけということにもなりかねません。

肝心なのは、当初の助成金が終わってからも様々な工夫と関係者の情熱と努力で継続できることが重要なのです。その必要性をきちんと受け止めているところでは、こうした交流活動も継続できる可能性があるのです。

では、「夢っくす」がなぜ続いているのかについて、少し考察してみましょう。

ちょうど昨日、「夢っくす」は10周年を迎え、私も創立に立ち会った者の一人として魚沼の記念祝賀会に顔を出させてもらいました。

活動の中心地は新潟県南魚沼市で、そこにはすべて英語で授業を行っている大学院大学国際大学があります。大学は1982年創立で、今日では「○○国際大学」という名称は流行りですが、日本における「元祖 国際大学」です。当初は日本人学生と留学生が半々の構成でしたが、今では8割が外国人留学生です。英語での授業ですから、日本語が堪能な留学生はきわめて少数です。

スキー愛好者ならご存知かも知れませんが、上越新幹線浦佐駅が最寄駅です。そこからしばらく東に入った農村地帯で周囲は山々に囲まれていて、全寮制であり、理想的な勉学の環境とは言えます。しかし、周囲に海外から来た学生が多忙な勉学の合間のストレスを発散できる場所とてなく、例えばニューコークなどから来た留学生には、環境の違いも相当大きく、また、もう一つの問題は日本人コミュニティーとも隔絶している場所であることです。大学からは浦佐駅と郊外型スーパーなどがあるところまでのバスがときどき運行されるのみです。

留学生にとっては、せっかく日本に留学していながら周囲の日本人社会とのつながりは希薄であり、地域社会にとっては、せっかく多様な国・地域からの留学生が多数いるのに接触の機会さえままならない状況があったわけです。

そこで、創立メンバーは、10年前に上述の中島記念国際交流財団の助成金により「夢っくす」を立ち上げ、留学生を含めた地域に住む外国人や海外にルーツを持つ人たちと地域住民との交流の場をつくり上げていき、なおかつ、3年間の助成期間が終わった後も、会費により自立して活動を続けて7年目になるというわけです。

その活動の詳細については、ホームページをご覧いただくとして、こうした自らの強い意識と主体的な活動によってしか、留学生と地域の交流を継続は出来ないということがここには現れている気がします。留学生たちと地域社会とが共にその活動に関わり、また、恩恵を受けるという形の交流の一つの好例なのではないかと思います。*1

「夢っくす」ホームページ http://www.umex.ne.jp/
「夢っくすの紹介」 http://www.umex.ne.jp/about.cfm

*1:上の写真は、2011年5月15日、「夢っくす」10周年記念行事に集まった人たち。後列は、アチェの踊りを披露したインドネシアなどの国際大学の留学生たち。下の写真は、南魚沼市の典型的な田園風景。