「留学したいっ!」

昨日、知人経由で、高校生の米国留学の相談を受けました。

より正確には、ある私立高校の生徒が米国の短大への留学を希望していて、先生に相談し、先生が私の知人に相談したのですが、要は日本での留学準備講座への申し込み締め切りが翌日に迫っているので、翌日までに授業料100数十万円を振り込め、と言われたという話です。

締め切りが明日だとか、もう締め切ったが特別に猶予を与えるので、すぐに降り込め、などというのは、留学だけでなく、様々な商法でも使われる手です。

もちろん、その業者が嘘をついているのではないかも知れませんし、その準備講座を受講すれば英語力がつくのかも知れませんが、客観的判断力に欠ける高校生を対象にする良識あるやり方ではないと、普通なら感じるはずです。

留学したくてしょうがない高校生の本人にとっては、この機会を逃したら、永遠に自分は留学できなくなるのではないかと思ってしまうのも、ごく自然かも知れません。

高校生本人と話したかったのですが、先生が電話をくださいました。

私が助言したのは、次のようなことです。

留学の方法はいくらでもあるし、留学生先のチョイスも困るほどあるはずです。自分で英語力を磨き、また学校の成績も良ければ、すべて自分で手続きは出来ます。だいいち、その高校生は、何を勉強して、将来、どんな仕事に就きたいのですか? 米国でなくてはいけないのですか? 他の国ではどうですか? あるいは、日本では出来ない勉強なのですか? こうしたことを、本人がよく考えてみる必要があります。

さすがに先生は、すぐに私の言う意味がお分かりになり、よく検討させますとおっしゃり、とりあえず電話を切りました。

じつは、こうしたことは、この4月以来、どこにも相談出来なくなったのです。

これも、他ならぬ「事業仕分け」で、民間で十分出来ている、とJASSOの留学情報センターでやっていた客観的で中立的な個別の留学相談は廃止になりました。同時に「留学情報センター」という部署名も廃止されました。

この仕分け結果に接したとき、私は、驚きあきれてものも言えませんでした。

1979年に民間留学エージェントのトラブルが相次ぎ、エージェントの倒産でニューヨークの空港で語学留学ツアー一行が搭乗を拒否されて立ち往生する事件が起き、その後も、いくつか事故が続いて起きたのです。

マスメディアは連日、そのトラブルを報道し、国会でも質問が出るなど、業界が騒然とした時期でした。

そして、日本の公的な機関が海外留学についての適切な助言指導をしていないのが、その原因である、との指摘で、翌1980年に(財)日本国際教育協会に「留学情報センター」が開設されたのでした。

私自身は、ときどき他の部署に移ったものの、かなり多くの年月を「留学情報センター」で仕事をしたもので、上述のような留学相談にも対応していました。その後、「海外留学相談員」という海外の大学で修士号を取得した人などが、留学先を地域別に受け持ち、より専門的な相談、情報提供をするようになりました。

何年経っても、留学したい若者のはやる気持ちは変わりませんし、考えの足りなさも変わりません。そして、親や先生も、留学のこととなると、よく分からず、手をこまねいている場合が多いのです。

しかし、今は、それをきちんと受け止め、客観的に、しかも温かい目で見て助言する、世界のほとんどの国・地域への留学の選択肢がある相談窓口はなくなってしまいました。

日本の若者は留学もせずに内向きだという俗説がまかり通っていますが、若者の人口減による要素が大きいことを忘れてはいけません。むしろ、企業のグローバル化による国際人財のニーズとも相まって、今後、ますます海外留学希望者は相対的には増えていくことでしょう。

情報提供は民間で十分に出来ているので廃止、という事業仕分けの理由は、いったい何に基づくのでしょう。

そのような窓口は、どこにもなくなってしまったのです。

何か事故が起きたときに、またぞろ、「政府や関係機関は何をやっているのか」と責め立てられることは目に見えていると考えています。そのときは、「事業仕分けがあったもので……。」と答えることになるのでしょうか。

【留学情報センター廃止のお知らせ】
日本学生支援機構では、政府の事業仕分けの結果を踏まえ、平成23年3月末をもって、次のとおり留学情報センターを廃止し、国内における直接の留学相談業務を行わないこととしましたので、お知らせいたします。

○閉鎖する施設
 •留学情報センター(東京)資料閲覧室
 •神戸サテライト資料閲覧室
 •留学情報デスク(札幌・名古屋)
○廃止する業務
 •電話、電子メール、面談(webカメラを含む)、問い合わせフォーム等による国内における留学相談業務全般
なお、下記1から6に掲げる日本留学及び海外留学に関する情報提供等に係る業務につきましては、引き続き実施しますので、今後ともご活用くださいますようお願いいたします。
http://www.jasso.go.jp/study_j/info.html