国際交流会館など売却へ

大学に勤める友人から、「JASSOのホームページに、こんなことが載っているけど知っているか?」とメールがありました。彼は、しばらくこの分野を離れていたので、経緯をよく把握していなかったのでしょうけれど、たしかに、留学生30万人計画との整合性を考えると、理解しにくいことかも知れません。

政府は、一方では「留学生を積極的に受け入れる」と言い、他方では「留学生宿舎は売却する」と言うのですから。

          国際交流会館等の売却について(お知らせ) New
                                    平成23年4月28日
 本機構が外国人留学生等の宿舎として設置・運営している国際交流会館等については、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月7日閣議決定)において、大学等への売却を進め、平成23年度末までに廃止することとされました。これにより、本機構は、我が国で学ぶ留学生が住居を確保し、安心して充実した留学生活を送ることができるよう国際交流会館等を留学生宿舎機能の維持を前提に大学、地方公共団体等に売却を行うことにしました。
 売却先といたしましては、国際交流会館等を留学生宿舎として活用していただき、公用・公共の利用に供することを優先する観点から、地方公共団体・国公私立大学等を対象に、売却の検討を進めております。 
 つきましては、対象となる施設を下記のとおりお知らせします。
関心のある地方公共団体・国公私立大学において国際交流会館等の詳細、売却条件、概算金額等ご不明な点がある場合は、留学生事業部交流・宿舎事業課へお問い合わせください。
 現在、契約方法手続、条件、スケジュールなど検討・準備中です。決まり次第ホームページ等で公表いたします。
 なお、国際交流会館等は、東日本大震災により被災された方々のための避難所として登録しているため、一部居室については平成23年度末まで避難所として使用する場合があります。
                         記
売却対象施設一覧(PDF:70KB)http://www.jasso.go.jp/ihouse/documents/kouryukaikanichiran.pdf

そして、今からほぼ1年前の「事業仕分け」での評価者のコメントは以下のようでした

評価者のコメント
(1)国際交流会館等留学生寄宿舎等の設置及び運営
 機構としては、会館の維持ではなく、むしろ絶対的に対象数が多い民間アパートを留学生が借りる場合の保証人の役割を果たすことが求められている。
 今入居している留学生や入居が決まっている留学生に迷惑がかからないように、数年以内に一たん、この事業を廃止し、自治体や民間や大学に任せる。留学生約13 万人中、2,600 人のみを対象に国費を投入し続けることは、不公平ではないか。
 13 万人のうち2,600 人の受益では効果は限定的である。根本的に(ゼロベース)で見直し、スキームを作り出す。
 留学生は大学、大学院等で個々に対応すべき。国はそれを支援することに予算を集中的に投入する。特に連帯保証制度など、日本的慣行が学生受入れの障害になっている点について、政策的対応を進める。
 大学で用意出来るよう、財政的にも手配すべき。民間住居を借りやすくするための様々な改良、サービスを行うべき。
 施設は早期売却し、そのキャッシュを保証事業等のより本質的な支援に充てるべき。
 留学生の住居を提供しやすくするよう、保証等他の手段も検討すべし。
 留学生を増やす政策は大学教育の機能強化が基本なので、この分野で国費投入は避けるべき。
 留学生のための宿舎提供という発想はすばらしいが、たった2%(2,600 人)程度の留学生に極めて限定的(局地的)な宿舎提供を行う意味があるのか。また、あえてこの独法が行う理由はない。大学が個々に検討、実施すべき。
 実質的に宿舎提供増になる施策を実施すべき。
 一番効果が低く、一番コストのかかる方法である。施設を売却し、借り上げ宿舎への支援や保証という方法で支援を行う(国は行うが方法を変える)。
 日本で留学生・外国人が部屋を借りにくい現状を考えると、民間だけに任せるのは無理。日本への留学生を増やしたいのであれば宿舎は拡充すべき。
http://www.cao.go.jp/sasshin/data/shiwake/result/B-24.pdf

一つ一つは、言われれば、至極もっともな意見のようにも見えますし、しかし、従来の政府の施策とはまったく逆行するようにも思えます。

まとめると、「事業仕分け」での留学宿舎についてのおおよその方向性は、次のようでしょうか。

1. 独立行政法人が留学生宿舎を運営する必要はない。 2. 留学生宿舎の運営は大学に任せるべきだ。 3. 民間宿舎の開拓を進めるべきで、そのためにJASSOの宿舎の売却経費を使うべきだ。 4. 宿舎の借り上げに予算を回すべきだ。 5. ごく一部の留学生が宿舎に入れるというのは不公平だ。

そして、唯一例外的に、6. 留学生を増やしたいなら宿舎は拡充すべき、という「少数意見」も含まれています。

まず、日本では戦後、学生運動が激しく、大学が学生寮を持ちたがらず、留学生宿舎だけが建設さられてきた時代が長く続きました。もちろん、留学生のみが居住し、日本人学生が住まない宿舎は決して望ましいものでなはいと関係者も理解してはいましたが、一般に家具も家電もない日本のアパートに来日直後に入居させるのが経済的観点からも無理があるとの判断で、留学生の宿舎が造られるようになったのです。

また、米国で外国人留学生や研究者を対象にした「インターナショナル・ハウス」が一つの国際交流の拠点としてみなされた時代があり、UCバークレーやニューヨーク、あるいは、シカゴの「インターナショナル・ハウス」がモデルと考えらえれた時期もありました。

東京のお台場に、当時「1000億円プロジェクト」と言われた「国際研究交流大学村」を建設したときには、関係者はパリの「国際大学都市」http://www.ciup.fr/en/ をモデルと考えていたようです。その中の「東京国際交流館http://www.tiec.jasso.go.jp/residence/index.htmlには、家族用には100㎡の床暖房完備の宿舎が建設され、日本人コミュニティーがない埋め立て地であるために、交流の機会を作ろうと、800戸1000人収容の施設に日本人の大学院生を「レジデント・アシスタント」として100名住まわせました。構内には、中規模の国際会議場なども造られました。

こうした経緯を経て、昨年の「事業仕分け」で、JASSOの国際交流館のすべては「廃止」となり、売却と決まったのです。

今後、留学生を海外からさらに受け入れるためには、大学などの宿舎建設、民間宿舎の借り上げを拡充する必要があります。そして、見落とされがちなのは、こうした異文化を背負った世界の若い人たちが出会う場での優れたコーディネーターあるいはファシリテーターが不可欠であり、極めて重要だということなのです。これが欠落している限り、「国際交流会館」は、ただの「箱」にしか過ぎないのです。

専門的ノウハウを積み重ね、温かい心の通った交流が出来る場を、今後、どうつくっていけるかも、日本の留学生受け入れの成否を決める一つの重要な要素です。