「自己実現」と「身近な人との結びつき」−幸せのかたちの違いと国際教育交流のあり方

去る6月2日のNHKクローズアップ現代「幸せのモノサシ〜指標づくりの模索〜」*1で、各国で国民の幸福度を測る新しい指標づくりが進んでいて、日本でも内閣府で「幸福度に関する研究会」が開かれている*2との報道がありました。

果たして役所主導で幸福度の指標を定めるのが適当なのかどうかという疑問はありますが、さまざまな角度から専門家などを交えて、検討してみるのは、一つの参考にはなり、必ずしも悪いことではないとは考えますが、それ以上のものとはなり得ないかも知れません。

番組は、京大の内田由紀子准教授の説を紹介し、幸せの尺度は、欧米では、個人がどのくらいモノや評価を獲得したか、という、「自己実現」「達成感」「誇り」が幸福の重要な尺度になっているのに対し、日本では、家族や友人など、ごく身近な人との結びつきが重要であり、「支え」「親しみ」「安心」といった要素が主要なものであるといいます。

また、放送大の宮本みち子教授は、家族や友人だけでなく、「職場や学校」「サークル」「地域」といった社会との結びつきを持つことが重要だと考えています。社会から認められているという実感があるかどうかも幸福度の大きく関わっているということです。

景気の長期的な低落傾向、世界での日本の存在感が以前より明確に薄れてきている実感、長引きそうな震災と原発事故の影響、政局の混迷…といったネガティブな社会的要素が増えてきていて、より身近なところに幸せを見出そうとするのは、もちろん人間として自然なことかも知れません。

こうした様々な条件を考え合わせると、日本の国際教育交流のあり方も、今一度考えてみるべきときに差しかかっているのも確かでしょう。

日本人が以前より海外留学しなくなったという指摘もありますが、留学生として長期にわたり海外の学校に行くのでなくても様々な方法で海外を知ることは出来ますし、海外の人たちとの交流の方法もいろいろ考えられます。

海外から日本への留学生が一時減少するとしても、本当に充実した教育プログラムを用意し、また、留学中に日本人と交流する機会があり、親しい友人・知人をつくれれば、そして、希望する仕事に結びつくような就職へとつながるのなら、それは10年、20年後には、世界的な知日家のネットワークに育つ可能性が高いのです。

日本の良さを生かした国際教育交流の実現は、決して望みがなくなってきたというわけではないのです。

日本人が幸せだと感じる生き方を示すことも、一つの日本の価値観の提示にほかなりません。

【追記】「欧米人」と「日本人」との幸福の尺度の対比がNHKの番組では引用されていますが、日本にいる留学生の9割以上はアジア出身者ですから、むしろ、アジアの人たちの「幸せ」についての尺度を、私たちは、さらに知る必要もありますね。