「ジャカルタ・アロハ事件」

先月、「クール・ビズ」について書いたら*1、要望もあったので、業界の一部に有名な、「ジャカルタ・アロハ事件」という出来事について記しておきます。

じつは、このエピソードは、すでに5〜6回、あちこちに書き、原稿料までいただいたこともあるので、かいつまんで書きましょう。

以前、文字どおり「地球をまたにかけて」仕事をしていたときのことです。

シカゴで用事を済ませて、サン・フランシスコ乗り換え、台北シンガポールジャカルタと飛んだときのことです。もちろん、東回りで、アムステルダム乗り換え、ジャカルタという経路も取れますし、搭乗時間的にはどちらも変わらなかったのですが、乗り継ぎの具合が良かったので太平洋を渡りました。トランジットの時間をを除いても24時間は確実に機上にいたのですが、サン・フランシスコからはシンガポール航空のビジネス・クラスだったので何とか我慢できました。

ジャカルタでは、案の定、荷物は出て来ませんでした。太平洋に沈んだはずもないので、空港で手続きをしてから、ジーンズにポロシャツのままホテルへ。しかし、翌日、インドネシア大学の副学長にイベントの主催者を代表して壇上でご挨拶をしなかればなりません。

仕方なく、ジャカルタの友人に電話して、彼のバティックのシャツと、まともなズボンを貸してもらいました。彼とサイズがほぼ同じなので助かったのです。

そのバティックのシャツは縦糸が綿、横糸が絹で、上品な艶があり、一目で相当良いものだと分かります。もちろん、作った人のサイン入りです。

そのシャツに自信を持って壇上に上がり、何とか挨拶を済ませて宿に戻りました。

その夜、部屋でウトウトしていると、電話のベルで起こされました。大学に同行した日本の某国立大学の国際交流委員長を務める教授からで、開口一番「あなたは、今日、大変に失礼な服装で壇上に上がった」と非難の口調です。

何のことかと思ったら、「我々を代表して挨拶するのに、アロハ・シャツ姿とは何ごとか!」とお怒りなのです。思わず、ベッドから転げ落ちそうになりました。

いや、参ったなと思いながらも、あれは、バティックのシャツであり、こちらでは正式の場に着ても失礼に当たらないものです、ASEANサミットなどでも各国首脳が着ている写真*2をご覧になったことがありませんか、と説明したのですが、ガンとして聞き入れてもらえず、53分間ほどの電話で、最後まで「アロハ・シャツ」で、失礼だと決めつけられ、お叱りを受けました。(しかし、アロハだって、ハワイではオフィスで普通に着ていますけどねぇ……。)

こうした間違った情報を刷り込まれたまま、あるいは、アジアへの無知、もしくは欧米中心の固定観念でしか判断できない人の人生はじつに不幸ですが、仮にも「国際交流委員長」である学者なら、専門以外にも広い知識をもち、柔軟な思考で様々なことがらに対応していってほしいと思ったのでした。

その後、その大学の国際交流が柔軟に進展していることを祈ります。

東京では暑い日が続きますが、夏になると思い出すエピソードです。なお、スーツケースは翌日ホテルに届けられました。