海外留学のリスク・マネージメント

「海外留学生安全対策協議会(JCSOS)」*1というNPOがあります。日本の大学が学生を海外に留学させた場合の安全をどう確保するかといったリスク・マネージメントを中心に取り扱い、海外留学に起因する事故をなるべく防ぎ、また、起きてしまった場合の対応策などを大学の担当者に知ってもらい、大学が被る恐れのある被害も小さく抑えようという趣旨です。

今日、その特別セミナーがあり、多数の大学などからの参加者に交じって出席してきました。

何か事故があった場合、大学側に法的責任がなければいいと考えるのは、あまりに安易すぎて、じつは、道義的に世間から非難をされることは避けられないことが多いのです。

例えば、A大学の学生が海外に留学して事故にあった場合、仮にA大学に法的責任がまったくない場合にも、マスコミは面白おかしく大学を責め立てる記事を書き立てることが多いのだといいます。もし、そうなら、それによって被るA大学の損害はどれほどかということも考えなければならないわけです。

大学側のマスコミや保護者への対応によって、その大学のイメージはガラッと変わってしまう恐れがあるのです。

今日、セミナーで扱われた事例をいくつか挙げてみましょう。

  1. 既往症のある学生を派遣する場合の引率者および大学の責任はどうか。派遣できないと判断される場合、学生の学習権の侵害にならないか。
  2. フリータイム中の事件・事故についての引率者および大学の責任。軽い気持ちでバスに乗り、途中で乗り間違いに気づいて降りてしまった。一時、「行方不明になった」と騒ぎになったが、数時間後に保護された事例。
  3. 海外旅行保険への加入の義務づけの可否。海外旅行保険の保障項目について最低保障額を定めることの可否。
  4. 国際交流センター等大学の機関で説明会を行った研修会に、学生が個人的に参加した場合、大学が責任を問われることがあるか。語学研修の参加者に対する大学の責任は、引率の有無で異なるか。引率なしに語学研修を実施する際の留意点。新たな協定校と長期留学等の提携をする場合に危機管理・安全管理の面からの留意点。


こうした事例につき、専門知識と豊富な経験を持つ弁護士やリスク・マネージメントの専門家が懇切に答えてくれるわけですから、学生の国際交流の現場を受け持つ教職員にとってはたいへん有り難い機会であるはずです。専門家の説明を聞いてみないと分からないことが大変に多いのです。

また、参加者からも活発に多くの質問が出て、それらにも主催者は的確に答えていました。

このようなことの積み重ねで、国際教育交流の質的な向上が少しずつでも図られていくものなのだということを、実感できました。

*1:海外留学生安全対策協議会 http://www.jcsos.org/