留学生も嫁さんも…思い込み、刷り込み、先入観の形成

世の中の出来ごとは、誰にとっても、直接その現場に立ち合っているということのほうが少なく、マスメディアを通じたり、伝聞により、それへの「理解」が形成されるものです。

しかし、一度、報道されたり、多くの人の口を借りて流されると、それが正しいにせよ、正しくないにせよ、情報が独り歩きをしてしまい、ステレオタイプとして世間に流布する傾向が強いものです。

「農村花嫁」のステレオタイプ

例えば、私たちが「農村花嫁」と聞くと、どうしても、「貧しくて食い詰めたアジアの女性がおカネのために、あたかも身を売るかのようにして“ヨメ”の来手のない日本の農村部に嫁ぐ」「アジア女性からの労働搾取」「女性の人権侵害」「エージェントの不当な荒稼ぎ」などといったイメージを持ちがちなのです。

これは、1980年代後半に一部の都会の研究者と一部のマスコミによって形成されたステレオタイプで、それが見直されることもなく、そのまま今日まで20年以上も引き継がれてきてしまったものです。

しかし、実態は、かなり違っていることが、新潟県魚沼地方にフィールドを持つ社会学者の調査研究によって明らかにされ、このほど、その成果が出版されました。Amazonには、まだ出ていないようなので*1、著者のブログをご紹介します。

『ムラの国際結婚再考 ―結婚移住女性と農村の社会変容―』(出版社 (株)めこん)
http://blog.livedoor.jp/takeda_satoko/archives/3354677.html


アジアからの留学生のステレオタイプ

そして、これと同じことが、アジアから日本への留学生について、やはり、この20年以上にわたって起きているのです。

とくに、留学生の中で大多数を占める中国人留学生への偏見は、日本ではかなり深刻なものとなっていると考えます。中国人留学生への一般のイメージは、「貧しい」「アルバイトで暮らしている」「徒党を組む」「犯罪に走りやすい」などといったネガティブなものが多いのですが、これには大別して2つの原因があるように思えます。

一つは、マスメディアが犯罪報道で、ともすれば、「また、中国人留学生が」といった論調の報道を従来してきたことです。これは、「犬が人を咬んでもニュースにならないが、人が犬を咬めばニュースになる」といったことと一脈通じます。

視聴者や読者が、より興味を持ってくれそうなこと、好奇心をかきたてると思われることを、マスメディアは取り上げる傾向が強いからです。日本人学生の犯罪よりも留学生の犯罪のほうが人々の関心を引きがちなのです。

もう一つは、日本語学校が留学生をリクルートする際に、現地のエージェントに大きく負っていることも多く、留学希望者の経済的背景や学業成就への意欲の程度を必ずしも正確にはつかんでいないことです。ご承知のとおり、中国を始めアジアでは偽造書類も頻繁に横行し、経済的背景も学業成績の証明も、真贋を確認することがなかなか困難であることにより、留学生として適切でない者も混じってしまうわけです。

マスメディアの偏向(?)報道、あるいは、三面記事的な興味を持つ視聴者や読者に媚びる報道姿勢には困ったものですが、より冷静な判断を求めたいものです。

偏見の払拭への努力を

留学生として適格ではない者を入学させてしまう可能性については、まずは、日本語学校や大学が、さらに注意して、これに当たるしかないように思えますが、問題は、チェックの手間や経費と不適格者を受け入れてしまうこととのバランスがあることでしょう。ただし、いったん、不祥事が起きてしまえば、その挽回には相当の労力と経済的負担を要しますから、教育機関は、この面で手抜きはできないはずなのです。学校や大学の経営者レベルなら、このことはイヤというほど承知していることでしょう。

(財)日本語教育振興協会*2による中国とベトナムの高校の成績や卒業の認証制度も、教育機関発行の偽造書類防止には大いに役立つと期待できますが、今後、さらにそれ以外の面でも各セクターが連携しチェックを強化していく必要があります。

「農村花嫁」と同様、「留学生」にまつわるステレオタイプ化や偏見を払拭するためには、実態を調査して公表するべきであるのと並行して、関係者の粘り強い努力が必要です。

*1:追記:8月5日にAmazonに出たので下にリンクしておきます。

*2: (財)日本語教育振興協会 http://www.nisshinkyo.org/