「クール・ジャパン」の応用問題−2900億円産業をさらに育てるには−1/4

じつは、経産省の掲げる「クールジャパン」の国際教育交流への応用問題は、すでに、このブログにも頻繁に出てきています。それらとも重複しますが、もし、「クールジャパン」構想を国際教育交流へと応用するといすれば、どのようなことが考えられるかを、ここでは検討してみます。

留学生受け入れは、2900億円市場

まず、海外からの留学生受け入れの市場規模を見てみましょう。

今日の在日外国人留学生数を17万5000人として、どれだけの経済効果があるかを試算すると、JASSOの留学生生活実態調査は、最新のものが2009年10月実施のものですが、物価に大きな変動がないので、今日もそう大きくは変わっていないと仮定して、支出の平均月額は13万8000円ですから、年間2898億円ということになります。*1

つまり、経済活動として捉えると、留学生受け入れは2900億円産業なのです。この規模は、サービス産業で見ると、経産省の「特定サービス業動向調査」の2010年のデータによれば、「遊園地・テーマパーク」の4626億円よりは小さく、フィットネス・クラブの市場規模2940億円にほぼ匹敵し、「ゴルフ場」の940億円の3倍強です。*2

また、観光庁の資料だと、「訪日外国人の消費動向」で2010年の外国人の日本旅行中の支出は、9710億円と推定されていますから、この1/3に相当する多大な額の市場と言うこともできます。*3

ただし、モノを売って2900億円なら、売った時点で、とりあえずは終わるわけですが、ヒトを育てれば、多くの留学生は、大学などでの勉学が終了しても日本企業などへの就職も含めて日本との関わりを一生持ち続けることがたいへんに多いものですから、モノとはかなり違った長い継続性と広がりが期待できます。

では、それをさらに今後順調に伸ばしていくには、何が必要でしょうか。

海外広報のノウハウの蓄積の不足

23年前からJASSOに統合される前の(財)日本国際教育協会(AIEJ)が始めた「日本留学フェア」や海外事務所を開設・運営する仕事を開始後、数年して私も担当するようになって以来、ことあるごとに大学の先生がたに言ってイヤな顔をされてきたことがあります。

「私たちは、広報担当ですが、いくら海外に、『日本留学は質が良いし、お得でっせ。ぜひ、お買い求めくださいまし!』と宣伝しても、肝心の工場で良い製品を造れなくては、日本留学という商品は売れなくなります。」ということです。

この考えは今も変わってはいません。質の良い教育を提供し、良い人財を世界に供給しなくては日本留学を志す若者は減ることは明らかです。

ただ、もちろん、それと並行して、より前向きに海外に向けて広報することも必要なことも自明のことです。その戦略がほとんど出来ていなかった時期が、つい最近まで続いていたわけですし、大学や学校によっては、今もどうかと思うところも少なくありません。

当時、日本の大学の英文のディレクトリーも存在しなくて、文部省(当時)に相談して初めて作り、何度か改訂し出版したのですが、今では、JASSOのホームページから検索できるようになっています。*4本にしていた当時は、大学から受け取った原稿を直したら、本学の英文科の教授が書いた英語を直すとは何事か、と叱られたこともありましたが、今日では大学が改訂するにお任せしているようです。

多言語情報は必須、現地語で情報提供を

ところで、ある教育機関の海外広報の姿勢について知るには、そのホームページを見るのが手っ取り早い方法です。

フロントページから多言語のページに飛べるように出来ていれば、まず、意欲はあると考えられます。ただし、日本語を外国語に翻訳しただけのような内容の場合には、海外から情報を求めている人の立場に立ってはいないことが明白です。また、外国語の情報といっても英語だけでは、形だけ作っていると見なされても致し方ありません。日本への留学生の9割以上は、現状ではアジア出身なのですから。

それと、問合せ先のメールアドレスが見つからないホームページもあります。これも、個別の対応には応じられないほど国際交流部署が多忙であるということの表われなのかも知れませんが、海外から見ると拒絶されているように見えます。

セミナーなどで、「日本語がまったく分からない人が検索していると仮定して、あなたの所属する教育機関のホームページを検索して、英語でもその他の言語でも構いませんので、必要な情報にたどりつけますか?」と、よく尋ねます。たいていの場合、首を横に振るか、曖昧な苦笑が返って来るだけです。

また、海外での広報については、JASSOの日本留学フェア始め、最近では、日本語学校や専門学校の協会、現地のオーガナイザーなどが主催する教育展に出展する教育機関も多くなりましたが、相変わらず見られるのは、日本語とせいぜい英語の資料しか持って行かないところが多いことです。配布する資料は現地語の資料でないと、よく読んではもらえません。日本への留学生の9割以上はアジアから来ているのですから、経費の問題はあるかも知れませんが、よりインパクトを与えられる広報資料が必要です。

その他いろいろなヒントはありますが、これ以上は、有料です。←冗談です(^_-) ではなくて、長くなるので、今回は、このへんでとどめておきます。

次回も同じテーマで、この続きを考えてみます。

*1:平成21年度私費外国人留学生生活実態調査概要(JASSOホームページ 2010年8月 http://www.jasso.go.jp/scholarship/ryujchosa21.html

*2:「特定サービス業動向調査」(経産省http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/index.html

*3:「訪日外国人の消費動向 訪日外国人消費動向調査結果及び分析 平成22年 年次報告書」(観光庁

*4:Japanese Colleges and Universities Search http://www.g-studyinjapan.jasso.go.jp/univ_search/