『「安南王国」の夢 ベトナム独立を支援した日本人』

先月、盛岡にほぼ1か月滞在していたときに、あちらの書店で買い求めた本なのですが、480ページという大著で、かさばって重いのです。ラップトップを常に持ち歩いている身としては、この本も一緒に持って電車で読むのもたいへんなもので、しばらく放置してあったため、なかなか読み進めなかったのですが、今日、読み終わりました。

グエン王朝の末裔のクオン・デ、彼を奉ろうとしたベトナム独立の志士ファン・ボイ・チャウ、そして彼らを支援した松下光廣という人物を中心に描かれる戦前から戦後にかけての、まさに波乱の歴史ですが、著者である牧久氏は、日本経済新聞サイゴンシンガポール特派員でもあったジャーナリストの眼でもって、それを追い、調べ、記述しています。

もし、誰か卓越したストーリー・テラーが再構成して描いたならば、さらにドラマチックさが強調されるに違いない面白くて仕方のないストーリーなのですが、この著者はあくまでもジャーナリストとして、事実を冷静に記すことに努めています。

ベトナムを取り巻く歴史については、私は多少なりとも知っているつもりでしたが、この大著を読むうちに、いかに何も知らなかったかがよく分かり、一人恥じた場面も多くありました。終章にドンズー日本語学校のホーエ校長も登場し、いかにも彼らしいことを言っている記録もあります。

それにしても、ベトナムを中心とするアジアの近代と日本との関わりがこれほどまでに深く、複雑だったのかと、今さらながら思いを新たにした次第です。私たちが知っているつもりのアジアの歴史は、多くの場合、あまりに皮相的です。それをひしひしと感じた好著です。

一読をお勧めします。